〜好学健癒〜雑記ブログ

医療系研究科 修士卒、累計読書冊数1500冊以上の私が、ブックレビュー、防災、ライフハック術、映画や観劇の感想などを綴るブログです。

名作SFソラリス (スタニワフ・レム)を読みました

こんばんは。染谷しおりです。

2004年に再翻訳され、2015年に文庫本化された「ソラリス」読んだので感想を。

2回、映画化もされているようです。

惑星ソラリス Blu-ray 新装版

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また、ソラリスを読んだ後に、翻訳をされた沼野充義さんの解説が掲載されている 100分で名著シリーズ
も読んでみました。

あらすじ

100分で名著の中で、沼野氏が分かりやすくあらすじを書いてくださっていたので、そのまま引用すると、

ソラリスと言う小説は、一言で言えば、人間と人間以外の理性との接触の物語です。
主人公の心理学者クリス・ケルヴィンは、その表面を覆う海が意思を持つとされる惑星ソラリスの謎を解くため、ソラリスの海の上空にある観測ステーションやってきます。しかし、そのステーションではいろんなことが起きており、そこにいた研究員たちの言動も不穏で、やがてクリスにもソラリスの海をもたらす不可思議な現象が起きることになります。」

ハードSFにして、これまで読んできたどんな小説とも似ていない

ソラリスは、1961年に書かれた小説ですが、SFとして全く古びていないと感じましたし、むしろ、目新しさすら感じました。

昔に書かれた未来SFの話って、いま見ると古臭くなっていたりすることもありますが、やはり長く読み継がれているだけあって、ソラリスはちゃんと、未来の話、という感じがします。

解説には、ソラリスの特徴として、さまざまな側面が作品を形作っていることが挙げられています。

・人間中心主義的な考え方に対する疑問を投げかけることで、宇宙における人間の知性の絶対性を否定する思想SFとしての側面
・宗教や神、人間の思想について言及している側面
・メタ科学小説としての側面
ラブロマンス的側面
・未知のものに対する恐怖を感じる恐怖サスペンス的側面

これらのさまざまな要素が読み取れるからこそ、やはりこの小説は読み応えがあるのだな、と思いました。

「人間の理解を絶した他者という概念」の表現が秀逸

「人間以外との理性との接触」をここまで中心に持ってきたフィクションというのは、これまでに読んだことがなく、とても面白い体験でした。

翻訳された沼野氏が、ソラリスを初めて読んだ際、「これまで読んできたSFのどれとも似ていない、何か根本的に違うものだ」と感じた、と仰ってますが、正にその感覚に近いものを感じました。

強いて少し、近いと感じたのは、手塚治虫氏の「火の鳥」。

火の鳥 1

火の鳥 1

謎の惑星に降り立って、石でできた生命体に襲われたりする話、ヒトが植物にメタモルフォーゼする話、カタツムリの知的生命体が出てきて絶滅した話…など、人間とは異なる文明や文化を築いている生命の表現、

また、少し雰囲気が近く感じたのは、最近読んだ「海獣の子供」。

海獣の子供は、作品の主題や、作者が何を伝えたいのか?ということが、ふわっとしているというか、あまり明文化されていない漫画で、
読んで感じたことを言語化するのが難しい作品だったな、と感じたのですが、それでも、ソラリスよりは分かりやすかったかもしれません。

ソラリスの解説にも載ってるように、「人間中心主義への疑問の提示」そして、「人間の理解を絶した他者という概念を表現しようとしているところ」が、
火の鳥や、海獣の子供に若干似たものを感じたのかな、という気がします。

ソラリスでは、人間とは異なる生命(かどうかも分からない、人間の理解を超えた存在)を提示することで、「人間の本質はなんなのか?」ということを掘り下げ、深く考えていく作りになっています。

そして、このソラリスは、その概念を表現する手法が本当に独創的で、これまでになかったような方法で描かれていて、天才的だと思いました。

この作品は、作者が何を伝えたいのか分かりづらいし、決して誰もが楽しめるエンタメ作品っではないけど、でも、名作だとは感じます。

思うに、一般的な小説とか、漫画、ドラマ、創作されたストーリーって、だいたいネタが出し尽くされてる感があるというか、
細かい設定は違えども、作者の伝えたいことは結局同じだったり、ストーリー展開や表現手法はどこかでみたことがあるようなものばかりというか、
どこかで聞いたような設定だなーとか、あーこのパターンね、っていうのが、どこかにあるのですが、

ソラリス」は今まで読んできたどのフィクションに当てはまらない、という感じがしました。
単に私がこれまであまりSFを読んでこなかったからかもしれませんが。

長く読み継がれていく価値のある小説だと思います。

また、どんな人生経験を積んだら、こんな発想で、創作できるようになるんだろう、とも思いました。

100分で名著の方では、レム氏の略歴も掲載されてますが、

第一世界大戦と第二次世界大戦の合間に、ポーランドで生まれたらしく、自分の住んでる地域を治める国がコロコロ変わっていたとのこと。
絶対的なものはない、っていう考え方、絶対的とされてるものに疑問を投げかける姿勢はそういった経験からうまれたのでは?との解説がありました。

また、レム氏はもともと大学は医学専攻だったけれど、小説家に転向されたそうです。こういう経歴も、手塚治虫氏と共通しているので、近い雰囲気を感じたのかもしれません。

ハードSFとしても楽しめる

著者のレム氏は、もともと医学専攻だということもあるのでしょうが、かなり科学知識に造詣が深い方なんでしょう、かなりハードなSFだなあ、という印象があります。

物理、化学、生物、地学なんかの、理科の基本知識がないと、もしかしたら、ちょっとついていくのに苦労するのかもしれません。

私は生物畑出身の人間ですが、それでも、序盤はもう読むのやめようかなぁ、と思いながら読んでました。

読書会の課題図書として読むのでなかったら、挫折してたかもしれません。

まあ、おおまかなストーリー自体は結構シンプルなので、もう分からないところは理解するのは諦めて、斜め読みでも良いような気もします。

ただ、だんだん読み進めていくうちに、ソラリスの他の小説にはない魅力、みたいなものを感じて最終的には興味深く読めました。

私は2回読みましたが、描写が細かく味があるので、まずはサラッと一回読んで、2回目はじっくり…でも良いかもしれません。


解説で、「ソラリス」は「メタ科学小説 」だ、とありました。
現在分かっている科学的な事実から、こんなことも可能かも?、未来はここまで技術が進歩しているかも?と考える遊び、これは結構楽しいです。
私は生物畑でしたが、採血してサッと作ったプレパラートで原子電子中間子まで観察できる顕微鏡なんて、技術力すっごいなー!!!
なんて考えながら読んでました。

もしかしたら、物理畑の人、宇宙工学や、特にニュートリノについて知識のある人だと、思わずニヤリとしたり、もっともっと楽しめるのかもしれません。

この間、オーディオブックで「宇宙は何でできているのか」

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

という本を流し聞きしたのですが、(途中から難しくなってきてあまりちゃんと聞いていなかった)
ニュートリノとか、暗黒物質反物質について解説してくれてたので、本を買ってもう一回ちゃんと読んでみようかなあ、と少し思ってます。

僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門

僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門

ちなみに、この本も面白そうなので、読もうかちょっと悩んでます(笑)

ラストシーンでのケルヴィンの思い

以下、少しネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。







ケルヴィン自身は、ソラリスでつくられた、彼女、ハリーはもう戻ってこないとは思っている。そこに関する希望はもうない。
けれど、ソラリスソラリスの海とコンタクトを取り続けようとすること、研究を続けること、に対して、の期待はまだ持ち続けている、

と私は解釈しました。

解説でも、「異質な他者に対する違和感を保持しながら、それでもなお他者と向き合おうとしている。」とあります。

ここは、きっと、レム氏の考えもあるのでしょうね。
きっと、レム自身も根っからの研究者、探求者なんだなあ、と思いました。

私だったら、もう、ソラリスは理解できませんわ、と思ってたぶん、地球に帰りますね。

私は大学院修士の時点で、研究からは離脱した人間ですが、ここに研究畑に入るか否かの境界線があるんだなあ、とちょっと思いました。


長く読み継がれていく名作

やはり、長く読み継がれている名作は、話の厚みというか、読み応えが全然違うな、と思いました。
ちょっと、とっつきにくい所もありますし、万人向けではないかな、とは思いますが、面白かったです。

単純なSF好き、というよりは、哲学や思想、心理学なんかを好きな人の方が読んでて楽しめる作品かな、と思います。