「そんなことで女が喜ぶと思うなよ」 現代日本におけるアラサー女の生きづらさを叫ぶ ①
今回読んだのは、
慶應大学、東大大学院卒で、
元キャバ嬢、元AV女優で、
その後大手新聞社で新聞記者として働いた後、
現在は、バリキャリの人生を歩んでる30代半ばの女性、鈴木涼美氏の著作です。
「そんなことで女が喜ぶと思うなよ」
なかなかなタイトル笑
経歴もLIFE SHIFT的というか、興味深い方ですよね。
- 作者: 鈴木涼美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2019/06/05
- メディア: 単行本
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●初読時と2回目に読んだ時で、著者に対しての気持ちが180度変わる
少し間を空けて2回読みました。
1回目に読んだ時と、2回目に読んだ時で著者への思いがかなり変わったのですが、ここまで読んだ時の印象が変わる本も珍しい。
●初読時 「30代女性の生きづらさを男や社会のせいにして、毒吐いてるだけだし、意見もすごく偏ってる。でも議論を活発化させる効果はありそう。」
初読時は、率直に言って、読んでて不快でした。
「鋭い意見」と、「単に毒吐いてるだけ」って、全然違いますよ?履き違えてない?って思いました。
この本は単に、30代女の生きづらさ、という愚痴を、理論武装しながらただひたすらにブチまけているだけであり、
そして、その30代女の生きづらさを、男社会とか、男性とか、この日本の世のあり方とか、ジェンダーのせいにしているだけじゃない?と思いました。
それに、男性だって、女性だって、本当に色んな人がいるはずなのに、
自分の周囲にいる人だけを当てはめて、男はこう、とか、女の人はこう、みたいなバイアスに囚われていて、この著者の抱いている男性像、女性像を前提にして、だいたいの物事が語られていくから、なんかもやっとするし、スッキリしない。
たぶん、当てはまる人がいるのは理解できるけど、当てはまらない人もいるはずだけど、そこに焦点は当てないの?と。
この著者の言っていることはすごく偏りがある、と感じました。
また、私は、すべての30代女子の代表!みたいな、文章の書き方なのもモヤっとしました。
まだ、私はこう思うよ、みたいな意見だったら良いんだけども、みんながみんな完全に鈴木氏と同じように思ってるわけではないし、すべての女の代表!みたいな文章で、愚痴をぶちまけないでほしい…と思ってしまった。
ただ、読んでよかった、と思ったのは、セクハラとか、アラサー女性の生きづらさ、って、男女間で話し合う話題として避けられがちな問題ではあるし、
こういった極端な書き方をされることで、一種の炎上効果というか、議論が活発になる効果はありそうなので、そういう意味では、色んな人の、この本を読んだ感想を聞いてみたい、と思えるものでもありました。
ここまで、ズバズバ毒を吐いてくれると、自分も、極端な意見とか、毒を吐いても良いかな?っていう免罪符になるような気がします。
そもそも、この著者を不快に感じたのって、たぶん、羨ましさから来ている部分もあったと思うんですよね。
自分の生きづらさをここまで堂々と男のせいや社会のせいにしながら、悪態つけるのがちょっと羨ましい。
本来、自分のバイアスから、完全に逃れることはできないけども、
それでも、 なるべく自分の物事の見方が偏らないようにしよう、と努力していて、そのことについて私は一種のプライドみたいなものを持ってるので、
こういう風に、完全に自分のバイアスを通して発言できる自由さを羨ましく思って、不快に思ったのもあるのかもしれない。
●2周目「著者は女らしくて頭がキレる人、言ってることは偏ってるかもしれないけど概ね同意できるし、著者が愛おしくすら思えてきた」
なんか、初読時は、ひたすらに男性や社会への愚痴や不満を聞かされただけ、という感覚が強く、不快だったのですが、
2回目に読んだ時は、不思議と鈴木氏が 少しいじらしく、愛おしい女性に思えてきました。
とはいえ、なんかこの人に意見すると、すごい理論武装した正論で言い返してきて言葉でボコボコにされそうな怖さがある人というか、スクールカースト上位なタイプというか、実際に仲良くなれるかと言われるとまた別問題なんですけどね。
でも、30代女の生きづらさの、恨みつらみ、愚痴のはけ口として、この本があって、それを社会とか、男性のせいにしている、という印象は変わってません。
この人自身も本の中で、
「わたしたちのずるいのは、本来は別なところにあったはずのクサクサの原因をあたかも、社外構造のようにふるまうこと」
って書いてるので、それは自覚された上であえて書いてるみたいなんですけどね。
「自分の不幸を分解していくと、結構な確率で自己嫌悪に陥るのを防ぐために、
できれば今後もオトコってほんとバカで悪趣味といいながらギリギリのところで自己嫌悪に陥らすぎずに生きていきたいと思ってる」
って書くことで、この本が「オトコってほんとバカで悪趣味」という愚痴を延々と書き連ねられる免罪符を得られてるのは本当にずるいw
そういう強かさは、私にはあまりない部分なので、そこを羨ましく思ったのも、初読時不快になった原因かもしれませんね。
あとがきには、男には感謝してない、って書いてあったけど、
何だかんだ言って、この人、男の人が好きな乙女なんだな、ってことが2回目に読んだ時は分かったので、なんかちょっと可愛いなと思えてきたんだと思います。
すごくオンナらしくて頭がキレる人ですよね。
オンナとして男の人が好きゆえに、男の人に苛立ちを感じて、
そして、頭がキレるからこそ、その理由を面倒くさくこねくり回して分析しつつも、
かと言って重くなりすぎないよう、キャッチーな言葉で上手くまとめてられてる。
割と、語られてる内容は、もう色んな女の人が散々こねくり回してきた内容ではあって、そこまで目新しさはなかったです。
ただ、言葉による表現の仕方は、やっぱり人によって違うから、そういう面白さはありました。
んーでも、ズバッと言う強さ、というか毒の吐きっぷりは、「東京タラレバ娘」とか、「深夜のダメ恋図鑑」とかの方が上かなあ。
- 作者: 東村アキコ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/09/26
- メディア: Kindle版
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- 作者: 尾崎衣良
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/04/10
- メディア: コミック
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●お勧めできる人は限られるが、読んだ人の感想をすごく聞きたい本
正直、私がこの本を人に勧めるとしたら、勧める人は限られます。
「深夜のダメ恋図鑑」のような、「これだからオトコは」系の本が好きな人、
そして、男の人に対してモヤモヤがあるけど、これまでにあまりそういう本を読んだことがなかった人。
男の人に対してすごく不満が溜まってる人は、すごく共感しながら面白く読めると思います。
私は、元々「これだからオトコは」っていう風に愚痴る女の人があまり得意ではないのと、類似の本を何冊か読んだことがあるので、ちょっと食傷気味でしたが。
何か嫌なこととか理不尽なことが起きたときに、それを愚痴るのも必要なことだとは思うんですが、
結局、単に愚痴るだけだと事態の解決にならないし、長々と愚痴話してる間にその問題の解消方法を考えたり、解消に向けて行動したりする方が建設的でしょ、って思ってしまうんですよね。
なので、単なる愚痴話とか愚痴自慢大会みたいなのって、あまり好きじゃないんですよ。
でも、逆にここまで愚痴ることを開き直って、振り切られて、それで本まで出版したりしてるレベルになると、逆に清々しさを感じます。
そして、男の人に対しては、この本を読んでどう思ったか、すごく聞いてみたい、という気持ちはありますが、
この本一冊だけで、女心を理解したよう気持ちになってもらっては困るので、あまり強くは勧めないです。
なぜなら、この本は、現在、バリキャリアラサー女子であり、かつ、元キャバ嬢、AV女優のキラキラ系元ギャル女子が感じた、「オトコへの怒り」は書いてあっても、
それ以外のグループに属する女性の男性への怒りや悲しみについてはあまり触れられていないので、必ずしも全ての女性に当てはまるわけではないからです。
とはいえ、違うグループに属する女性も同じような怒りを感じてるケースは多そうではありますが。
例えば、この中で語られている「学がないけどエリートと結婚した若くてぴちぴちした可愛い女の子」とか、の気持ちはあまり出てきません。
そして、男性とお付き合いをしたことないし、モテたこともないし、結婚相手もおらず、学もなくて仕事も大したこともしてないまま30代も後半にさしかかってきた独身のフリーターや契約社員、みたいな女性は、そもそも話題にも登ってません。
そういう地味だけど真面目に生きてる人にはスポットは当たっていない。
そして、僅かながら、すでに結婚もしてて、バリバリ働いてるけど、旦那も浮気せず愛してくれてて、子供はしっかり育てて、みたいな、スーパーウーマン的女性も存在はしているはずで、でも、そこもあまり触れられていない。
まあでも、そういう人の成功談や苦労の本は山ほど出てるので…無理にスポット当てる必要はないかな。
むしろ、こういうスーパーウーマンになりたいけど、なれそうにもないから辛いんだよ!
っていうのが「そんなことで女が喜ぶと思うなよ」の持ち味なので。
もし、こういう女性の気持ちを知りたいなら、
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日経ビジネス人文庫)
- 作者: シェリル・サンドバーグ,川本裕子,村井章子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2018/10/02
- メディア: 文庫
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また、著者は、加齢による見た目の変化についてすごく触れているのですが、
著者本人も自分のことを別に美人じゃない(だから二重の整形手術をしたりしている)とか、言ってますが、写真を見る限り、おそらく美人なんだと思います。
でも、顔が明らかに美しいわけではない、左右非対称である、大きいアザがある、といった、明らかに顔にコンプレックスを抱いている人の気持ちについても、全く触れられていません。
これは男女に関わらず悩むことではないかと思うのですが、そういった悩みについてもっと知りたい方には「顔ニモマケズ」という本はオススメです。
顔ニモマケズ ―どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語
- 作者: 水野敬也
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2017/02/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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私の読書の仕方として、この人、極端なこと言ってるな、と思う本を読んだ時には、チューニングの意味を込めて、逆方向に極端なことを言ってる本を読むことにしてるのですが、この本に出てくる人は、鈴木氏とは、スタンスもなにもかも真逆に生きてる人たちの本ですね。
積ん読になっていてずっと読めてなかった本なので、今回、読めて良かったです。良い本だったので、また、どこかでレビューしたいです。
そして、そもそも、女心を知りたい男性は、女心が知ることそのものが目的ではなく、
女性と良い関係を築くためにはどうすれば良いのか?とか、どうすれば女にモテるのか?ということを知りたいのだと思うのですが、
この本には、女性の怒りを踏まえた上で、女性とどうしたら良い関係を築けるのか、ということには触れられていないです。
なので、そういうことを目的にしてる男性には向かないし、勧めません。
この本は、男の人への文句はいっぱい書いてあるけど、じゃあ、どうしたら女は満足するの?という要望についてはあまり触れられてないです。
そういう意味では、この本の読後感は、すごく一方的に、正論で武装した文句をまくしられた時に感じる気持ちと似ています。
まあ、女性が男性に求めることは、極論を言えば、この本の終盤で述べられている、
「欲しいのはたった2文字だったり5文字だったりする」
だとは思うのですが、女心を学んで女にモテたい男の人にはその言葉だけだと説明不足、不十分でしょう。
著者の鈴木さんは、アランピーズ、バーバラピーズさんに書いて欲しい本がいっぱいある、と最後に言ってますが、女性と良好な関係を築きたいなら、彼らの書いた本だったり、あるいはジョングレイ氏の本だったり、の方が参考になる部分は多いかなと思います。
- 作者: アランピーズ,バーバラピーズ
- 出版社/メーカー: 主婦の友社
- 発売日: 2015/12/11
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ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた (知的生きかた文庫)
- 作者: ジョングレイ,John Gray,大島渚
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: ペーパーバック
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そして、著者は30代女の生きづらさを男のせいにしたり、社会のせいにしたり、してますが、
じゃあ、会社単位だったり、地域や国単位だったりで、社会としてどう変われば女性は生きやすくなるの?
ということについては、
WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する
- 作者: イリス・ボネット,大竹文雄(解説),池村千秋
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2018/07/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本は行動経済学の研究内容に基づいて、男女の格差を解消するにはどんなアプローチ、デザインにすれば効果的なのか?
ということについて焦点を当てて書かれた本です。
例えば、無意識のバイアスを外し、男女間の格差を無くすための有効なアプローチの例として、
オーケストラの採用時、採用面接ならぬ採用の演奏をカーテンをかけることで、人種や男女を分からないようにした上で審査したら、オーケストラで女性が採用される比率が上がった
というようなことが書いてあります。
この本は、男性にも女性にも、ぜひとも読んで欲しい本ですね。
思ってたよりも記事が長くなりそうなので、本の内容について思うこと、記事を分けます〜。
ここまでお読みくださりありがとうございました!